認知症の初期症状というと何が思い浮かびますか。
今日が何月何日かわからない、物忘れがある、ぼんやりして反応が鈍い、何事も億劫がる、などが思い浮かびます。
こうした症状が現れたときに早期受診を勧める意味のひとつに「認知症とよく似た症状がある病気と選別する」ことがあげられます。
認知症とよく似た症状がある病気はいくつかありますが、もし他の病気と診断された場合、治療で治る可能性があります。
これらの病気との選別はチェックリストなどだけでは絶対に診断できません。
画像診断、血液検査、各種認知症の検査を組み合わせ、総合的に診断されます。何かちがう、そう思ったら早めに受診されることを強くおすすめします。
では、認知症とよく似た病気にはどんなものがあるか見てみましょう。
1.正常圧水頭症
症状
□認知機能の障害 注意力の低下、ぼんやりして反応が鈍い
□歩行障害 歩幅が狭い、小刻みやすり足すり足で歩く、転倒しやすい
□尿失禁
以上が特徴です。特に認知機能の低下+歩行状態の変化は気づきやすいポイント
正常圧水頭症の場合、特に早く気づくことが大切です!
この病気は脳室に脳脊髄液が貯まってしまう病気です。脳を圧迫している状態で放置しておくと、圧迫により脳の神経細胞に不可逆的な変化が生じてしまいます。不可逆的とは元に戻らないことをいいます。脳は一度損傷してしまうといくら手術をしても改善しません。だから、損傷する前に!身近な人が早めに症状に気がついて受診をすることが大切なのです。
老人性うつ病
認知機能障害があるケースでは精神疾患と混同されることがあります。
代表的な精神疾患では老人性うつ病、アルコール中毒、統合性失調症などがあげられますが、特に多いのが老人性うつ病です。
こうしたケースでは精神疾患が改善することで認知機能障害が改善する可能性がありますので、やはり受診し診断してもらうことが必要です。
うつ病というと、若い人や中年の方がかかるイメージが強いですが、実は老年期うつ病はとても多い病気です。老年期は「喪失」体験が多くなるためと言われています。伴侶との別れ、友人との別れ、仕事や社会的役割が失われること、こうした「失う」経験により、自己の基盤のバランスが崩れ、
抑うつ状態を引き起こすのです。
また老年期うつ病では自殺が多いことも知られています。落ち込んだり、意欲の低下のイメージがあるうつ病ですが、老年期うつ病では、不安感が増したり、イライラするという訴えも多いです。
わかりづらく、自分で判断は出来ません。また内服治療で改善する可能性も高いので医療機関をきちんと受診し内服をはじめましょう。
慢性硬膜下血腫
高齢者は転倒することがよくあります。家族や子どもに言うと怒られるから、と内緒にしていることも割とあります。こうした転倒時に頭をぶつけ、そのときは何ともなかったのに・・・数週間から数ヶ月、場合によっては数年経過したときに、ぶつけた部分の出血が血腫(血の塊)となり、脳を圧迫してしまう状態をいいます。
血腫が脳を圧迫することで頭痛、麻痺、見当識障害などが起こります。
特に高齢者は脳が萎縮傾向のため、静脈がひっぱられており、ちょっと頭をぶつけたことでも硬膜下血腫ができやすい傾向があります。また、心房細動の方をはじめ、内服している方が多い「血液をさらさらにする薬」も出血のリスクが高くなるため、ちょっとした頭部外傷でも慢性硬膜下血腫を小実事があります。これは、医療機関でCT,MRIという画像診断をすれば発見することができるものです。
そして、小さな血腫なら自然と吸収。大きなモノでは血腫をとりのぞけば認知機能が戻る場合もあります。やはり、受診が大切。
甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンの低下により、記憶力が悪くなった、表情が乏しくなった、話し方がゆっくりになった等、うつ病のような症状がみられることもあります。そのほか、声のかすれや寒がりになった、洋服の着脱に時間がかかるなど行動の緩慢さ、手足のしびれなどなどもあります。
甲状腺ホルモンについては、採血で簡単に見ることが出来ます。毎年の健診は受けるようにしましょう。
ビタミンB1,B12欠乏症
ビタミンB1,B12が欠乏することでも認知絹障害が出ることがあります。高齢期になり、食べる量が減り1日1~2食しか食べない、パンやうどんなど簡単にお腹を満たせる炭水化物を摂取してしまう、ということもおこりえます。
これらも採血でわかります。
2~3ヶ月のうちに3kg以上の体重<減少が見られる、場合はぜひ受診しましょう。
まとめ
認知症に似た病気はたくさんあることがおわかりいただけましたか。そのほかにもアルコール依存症や内服薬の成分による認知機能障害など、様々な原因が考えられます。受診はすぐに受け入れたくない気持ちの方が多いです。説得の際には「治る病気の可能性」「その場合、早めに受診することで改善すること」をしっかりお話しし、はじめは家族が付き添って受診するとよいです。
嘘をついて受診すると、今後の信頼関係に関わるのでおすすめしません。
また、アルツハイマーやレビー小体型など真の認知症、と判断された場合でも、サービスや事業の活用で役割や交流持つことにより、進行を防ぐことも期待できます。
ご本人の思いもありますから無理強いはできません。しかし、医療につながり確定診断がつくことで対策もできますから、ぜひ「様子をみる」という言葉で悪化するまで待つことなく、早めに受診をすすめていきましょう。
認知症かもしれないと思ったら読むページ。何科を受診すればいいのか迷う方へ
😛 医療、福祉で認知症に関わる方、認知症をよく知りたい方に超!絶対おすすめしたい本を紹介します。
第5回(2016年)日本医学ジャーナリスト協会賞 書籍部門 大賞受賞。
誰もがなりたくない「不治の病」と言われる認知症。都立松沢病院の精神科医として長年認知症と向き合い、医療の限界を悟った上野秀樹医師が、認知症の訪問診療という地道な活動から導き出した「認知症の人が暮らしやすい社会」のあり方について提案する。医療の限界といっても、医療者があきらめるという視点ではない。どうケアをしていくかをとらえた本で医療職、福祉職の専門職はもちろん、患者家族が読んでも良いです。ぜひ。