以前、勤務していたデイサービスはお泊まりデイを行っている事業所でした。
デイサービスとは、ふつうは日中に高齢者が送迎バスによって通所し、食事や入浴といった生活援助サービスを受けたり、生きがいを持てるレクリエーションなどを組み合わせて受けるサービスを言います。ここで、夜間お泊まりができるところがあるのです。
私はお泊まり機能があるデイサービスで働くまで、存在を知りませんでした。
ここで働いてみて感じた本当のところをお伝えします。
「お泊りデイサービス」とは、通所介護事業(デイサービス)を行う事業者が、夜間に介護保険適用外で利用者に提供している宿泊サービスのことをいいます。デイサービスを利用した利用者が、夜もそのまま泊まります。値段は一泊の価格は数百円から数千円とそれほど高くはないところが多いです。
介護保険制度の中で高齢者が宿泊できるサービスとして「ショートステイ」や「小規模多機能型居宅介護」があります。ただし予約が埋まっていたり、新たな契約が必要だったり。特に小規模多機能を使うには、ケアマネを小規模多機能のケアマネに変更しないといけなかったりと利用へのハードルが高い部分があります。
また、ショートステイについては慣れない場所、時々しか会わないスタッフなので、本人が嫌がることもあります。いつも通い慣れているデイサービスで宿泊までできるなら、場所・人にも慣れていることもあり、ご本人が安心して宿泊できるのが大きなメリットです。
私が勤めていたお泊まり機能があるデイサービスは、小規模で定員10人以下のところでした。
アットホームがウリ。食事も手作りで家庭的な雰囲気でした。
介護士さんも少数精鋭で回しています。宿泊は1~2名が限度。部屋は普段デイで使っている場所に簡易ベッドなどを置いて対応していました。「ショートステイ」や「小規模多機能型居宅介護」のように宿泊用にレイアウトしている施設ではないので、カーテンで仕切ったりと工夫されていました。
それでも利用者はひっきりなし。利用のない日はほとんどありませんでした。
夜勤帯はひとり夜勤が常態でした。完全に介護士さんの好意と頑張りに支えられていることを痛感していました。
この夜勤の介護士さんが、もし悪い人だったら・・・。頑張っているけれど、疲労のピークでイライラが募ったら・・・。人の目がない場所なので実際、危険はあると思います。
それでもお泊まりデイが増えている理由は、介護保険ではまかないきれない部分の補助になっているのでしょう。
家族のレスパイト(休息)、そのほか急な夜間の預け先の確保において、自費とはいえ良心的な金額で、いつも通う慣れたお泊まりデイを利用できるのはありがたく感じると思います。
利用者さんからも満足度が高く、「立派な施設だから満足度が高いわけではないんだな」と思いました。
実際、ほぼ「住んでいる」方もいらっしゃいました。
働いていた自治体では、お泊まりデイは連続30日までしか利用できないというルールがありました。
「ほぼ住んでいる」その方は、30日連続利用に達した日は、夕飯を食べたあと20時ころ家族がお迎えに来て、一晩自宅で寝かせたら、朝ご飯を食べずに家族に連れてこられ、デイで朝ご飯、というパターンを毎月繰り返していました。
特別養護老人ホームの空きはなく、有料老人ホームは費用を考えると入居は難しい、家族は面倒を見れない、または家族同士の葛藤があってどうしても介護できない、そういった場合に、あの方を助けられるのはお泊まりデイしかなかったと思います。
お泊まりデイでおきた事故をきっかけに2015年、介護保険法が改正しました。
厚労省は省令により、平成27年4月1日より「お泊りデイサービス」を行なう場合に、都道府県もしくは市町村への届出、および事故があった場合の市町村や家族に連絡を義務づけるとしました。
都道府県は、届出の内容を介護サービス情報公表制度にもとづいて公表することも定めています。さらに、厚生労働省が新たに「お泊りデイ」に関するガイドラインを策定するとしました。ガイドラインでは、利用定員や一人当たりの床面積、緊急時対応などの指針が定められています。
無法地帯だった部分に一定のガイドラインを設けたことはいいことだと思います。しかし、1人当たりの床面積などカーテンで仕切っているようなデイで対応できるかな、と思います。お泊まりデイがなぜ増えているのか、必要としている人がなぜこんなに多くいるのか、そこをきちんと考えていく必要があります。
事故があった当初は、お泊まりデイの誹謗中傷も目にして、頑張って働く介護士さんたちを思うと胸が痛みました。
思い出す場面があります。朝出勤すると、1人夜勤でトイレ介助や頻回コールに疲れ果てた介護士さんが私の顔を見るなり「ああ、助かった・・・。今日看護師さん来る日だった・・・」(人員がいつもより1人多くなるから)とへたり込みました。必死で介護して高齢者を支えている現状を私は忘れることができません。
とはいえ良心だけで成り立っている世界に限界があるのも事実。
「普段行き慣れている場所で」「気軽にお泊まりが出来て」「安心できる」これが両立する未来。小規模多機能型も含め、福祉は進化しています。
自分が宿泊する立場なら、家族を宿泊させる立場なら、という視点を忘れずにいたい。またお泊まりデイを支える福祉職の方に尊敬を持つ世の中になってほしいと思っています。必要悪、という言葉が、すでに利用者にも、利用者家族にも、お泊まりデイの福祉職の方にも失礼では、と思っている今日この頃です。