「子どもには迷惑かけたくない」そう話す方が多い。
骨折して這いずるように生活していた方もそうだった。
肺炎を起こし朝方に意識消失したりした方もこっそり入院して退院していた。
軽い脳梗塞を起こし血液サラサラの薬を飲み始めた方もそう。
ひとりふたりの話ではない。健康状態に変化があったときにも子どもに連絡しない方が増えてきたと思う。住まいの距離が遠いわけでもなく、親子関係が悪いわけでもない。ただ、「迷惑かけたくない」と親たちは話す。
40~60代の子ども達。孫の世話で忙しいとか、努力して勉強頑張ってようやくついた仕事で忙しくしているとか、配偶者の親のことで大変そうだから自分のことで負担かけたくない、など理由は様々だ。
昔は親の面倒見るのが当たり前って思っている方も多かったですよね、と聞いてみた。「うちらの世代はそれでたくさん苦労してきたんだよ。親の面倒を見るもんだと考える親だった。だから自分たちは子どもの人生を邪魔したくないんだよ。」「みんな言うよ。」
そんな話をしていたら電話が鳴った。娘さんからのようだった。
「はいはい、こちらは元気でやってますよ。大丈夫大丈夫。そっちこそ忙しけれど休息とりなさいよ。いまお客さん来てるから、またね!」
お客さんとは私のことだ。全然元気じゃないじゃない・・・娘さん、お母さん圧迫骨折で痛み止め1日3回飲みながら匍匐前進で階段登っています・・・。本日介護保険申請のために来たお客ですよ、と心の中で思う。
その後、介護保険やくらしの支え合い事業(地域住民の助け合いサービス)を使いながらなんとか生活することができた。だからそれでよかったのかもしれない。何よりそれが親御さんとしての本人の望みだ。
たしかに親子関係は近すぎてもきつい。頼りすぎても重たい。
でもあまり距離を取り過ぎていると「万が一」があったとき、後悔してしまうこともあります。これはお互いにそう。
実際電話での「元気だよ」を信じ、3年ぶりに会いに来た息子さんが親の心身の虚弱した状況にびっくりして地域包括に駆け込んできたこともある。
ちょっと入院したつもりがそのまま戻れなくなった方もいる。
親がちゃんと受診できているか、健診は受けているか、薬は飲めているか、白内障などで見えなくなってないか、耳が遠くなっていないか、認知症で困っていないかなど生活上のことは家にいかないとわからない。
お薬手帳を見れば受診状況がわかる。内服を確実に飲むことが難しかったら薬をまとめて一包化するのもいい。内服薬とお金のことはノータッチの子どもが多いけれど、ここは一緒に確認してほしい。
ただ気をつけたいのは尋問のようにならないこと。
親たちはいままで通り生活していたら、いつのまにか、ゆるやかに虚弱状態になっていったのだ。「困った」とはっきり認識していないし「どうしたらいいのか」わからないから相談できなかったことも多々ある。
親も迷惑かけたくないから、隠すことがある。
親の最大限の思いやりなのだけれど。
子どもの時は、ちょっとした嘘を親についたりするもんだけれど、時を経て、やがて親が子に嘘をつくようになるのか、なんて思った。
人気記事⇨【case12】続・認知症って治らない病気じゃないの?