嫌なことは小さな声で
良かったこと、感謝したいことは大声で言いたい、と日頃思っています。
「仕事なんだからやって当たり前」・・・果たしてそうかな。
「仕事だけど嬉しかったら大声でお礼を言いたい」
この大声でお礼を言う行為。
何も野球部みたく「ありがとうございましたっ!!!」
とグランドに響き渡るように言うという意味ではありません。
例えば銀行の窓口で、レストランで、スーパーで、病院の受付で。
☑ものすごーく感じが悪いとき
☑不躾な態度とか取られたとき
その会社に苦情の電話をしたり、その場で怒って「責任者呼べ」と強い口調で言ったり、SNSに書き込んだり。
ムカムカして我慢ならない行為を解消しようと行動や言葉に表すことがあります。
一方、
☑ものすごーく感じがいいとき
☑丁寧な姿勢が素敵だと思っているとき
会社に電話して「素晴らしい対応でした」とわざわざ言ったり、
「責任者呼んでください。あなたの職場の社員は素晴らしい!」と店中に響き渡る大きな声で言ったり
SNSに書き込んだりすることは、たぶんまれ。
あたたかい気持ちにほっこりするだけ、ということが多いと思います。
嫌なこと、怒りは大声で。いいことはそっと胸にしまう。
そんなことが多い世の中ですね。
「ありがとう」と言われるために仕事をしているわけでは決してありません。
しかしときに、声掛けしていただいたことが力になることがあります。
看護学校卒業後、私がはじめて配属されたのは大学病院の第一外科病棟でした。
第一外科の扱う診療(病院により多少くくりの違いあり)
◎消化器外科、乳腺外科食道がん、胃がん、小腸がん、大腸がん、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)、肝臓がん、胆道がん、膵臓がん、乳がんなどの手術、化学療法、放射線療法などで加療される方
◎盲腸やヘルニア、痔の手術など1週間未満で退院される方
新人だったころの話です。
通常業務に加え、手術、検査出し、化学療法・・・。
毎日毎日、覚えることが多く、先輩に怒られることがとにかくとにかく多かった。
命の現場で失敗は許されない仕事ということはもちろん理解しています。
しかし完全にキャパシティを超えていました。正直に言うと、もうパニックでした。
職人の現場と言いますか、昔の体育会系と言いますか、
何かを聞くと怒られて「見て覚えなさい!」とあの頃の病棟では言われました。
自分自身の絶対的な力不足でした。情けなくて、つらくて、情けなくて。
「もう看護師なんて向いてないんだ」
「要領がいいわけでもないのに何で外科病棟を希望してしまったんだろう」
「ほんとうに役立たずで自分が嫌になる」
「患者さんに申し訳ない」
仕事は残業しても残業しても終わらない日々。
疲れと不甲斐なさでトボトボと下を向いて歩いて帰る日々でした。
仕事が終わるとほっとして電車のホームでこらえきれず泣いたりすることもしょっちゅう。
仕事の朝が来たら「ああ、もう朝が来てしまった」と絶望的な気分になりました。
そんなある日の夕方。日勤帯が終わる17時ころ。
受け持ち患者さんのお部屋の点滴チェックをしていたところ、個室からFさんに手招きされました。
そのころの私は「声を掛けられる」=「怒られる」だったので
ああ、患者さんに粗相をしてしまったのだろうか・・・と身を固くして病室に行きました。
Fさんはわたしをまっすぐに見つめ
「あなたの笑顔は人を癒す力があるのよ。私はあなたが担当の日はとてもうれしい」
「いつもありがとうね」
「今日はもう仕事が終わりなのよね。おつかれさま」
と優しく微笑んでくださいました。
準夜帯に入ったばかりの夕方。うす暗くなってきた病室の風景とFさんのことを、わたしは20年経った今でも忘れられません。
結局その日の日勤も、仕事が終わるまでには程遠く安定の22時帰りでした。
でも・・・本当に勇気づけられました。
私は患者さんに救っていただいた。
必ず心をこめた仕事でかえしていきたい。そう、強く思いました。
要領が悪い分は、手際がよくなるよう何回も反復するしかない。
患者さんにとっては気が滅入ることも多い病院生活。
これからもずっと看護師として親身になって対応をしていくんだ、と考えました。
私の看護観のルーツはたしかにこのときにあります。
そして、日常生活でも
嫌なこと、悪いことは、言わなければならない場面では小声で
いいことは、なるべく大きな声で
返していくことをモットーにしています。
「親切に対応してくださりありがとうございました」
「とてもわかりやすかったです」
「うれしかったです」
「工夫が伝わります」
と思ったことを口にしたり
レストランや講演会などの各種アンケートは、よかったことを面倒がらず記入するように心がけています。
接客を頑張っている方には、名札を見てなるべく名指しでお礼を伝えるようにしています。
その場限りの、おべんちゃらや太鼓持ちではなく
感じたことを嘘がない言葉でこれからも伝えたいと考えています。